【開催文】
【参加記】
奈良の方言学は民俗学と同様、研究蓄積が少ないといわれる。冒頭で中井氏は奈良県の国語学・方言研究の歴史を整理してくださった。
奈良県の言葉は大きくは近畿圏の方言に含まれるが、県の南部、十津川村、上北山村、下北山村は東京アクセントという大きな特徴をもつ。また今回とくにお話いただいた奈良県東部(山添村、都祁地域など)は、東海地方とも隣接する興味深い地域である。
中井氏は天理大学が40年前に行った東部地域の方言調査とこれまで氏が精力的に行われてきた同地域での調査結果とを対照させつつ、奈良県東部方言の現在を語ってくださった。
まず本報告で一つの流れとして確認されたのは、大阪方言の進出である。例えば、「モノモライ」を盆地部ではすでに「メバチコ」という大阪方言を用いている人々が大半である。にもかかわらず、東部地域では「メボ」「メンボ」と言う奈良方言が根強く使用されているのである。
大阪の言葉を都祁や山添などの東部地域が「くい止め」、三重県の上野方面への「東進」を防いできたこと。そこには自地域の文化や伝統を守ろうという東部地域の人々の強い自覚が存在するのではないか、と中井氏は語った。言葉・民俗・歴史などとの総合的な調査研究の重要性をあらためて意識させられた。
このように、学術的な深い問いを含みながらも、おもしろい事例をふんだんに交えてわかりやすく説明くださる中井先生の話に一同引き込まれ、あっという間に1時間半がすぎた。
今回も、本学職員(元職員さん)含め多彩な立場、分野の方が参加くださり、中井氏の話を共通項として楽しい議論の輪が広がっていった。たとえば「墓で倒れると猫になる」という言い伝えが山添村にあるが、その広がりの範囲や意味合いはという問いがある出席者から出された。さっそく民俗学を専門とする別の出席者などから様々な見解が出され議論は広がっていった。山添や都祁の方が3名もお越しくださったことでいっそう話は盛り上がり、話者の紹介、調査の提案なども参加者から行われ「地元学」という言葉の意義を実感した時間であった。
また、今回報告者や参加者から出されたことは、たんに「奈良」という一地方の話に止まらないものが多数含まれていたことも繰り返し銘記しておきたい。たとえば近年の「自分の地域の言葉」という感覚をもたない人の増加、また情報化や流動性が高まった現代に新しい方言がいかに生まれるか、といった問いはこれから全国各地であらためて問われて良い問いではないだろうか。