なら学研究会

奈良女子大学なら学研究センターのワーキンググループ「なら学研究会」の活動報告。奈良の研究史・研究者の回顧・再評価をおこなっています。

なら学勉強会を開催しました

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  • 講師:奥村隆彦(近畿民俗学会名誉会員)
  • 日時:2019年5月19日 14時〜、於奈良女子大学文学部N339教室
  • 出席:6名

小児科医でもあり民俗学者でもある奥村隆彦先生にお越しいただき、ご自身のご研究、民俗学と医学の相関、近畿民俗学会、そして奥村先生の知る澤田四郎作についてお話いただきました。

1927年(昭和2年)お生まれの先生は、本年で御年92。鮮明かつ整然としたお話で、とあるエピソードが今から見れば民俗学研究史の転換点にあたるできごとであったことなど興味深くうかがいました。

また、こんにちの学会/学界に対する批判も思い当たるところ多々あり、いかなる場としてあるべきか、いかなる機能を担っていた/いくかなど参加者とともに議論しながらの、あっという間の2時間でした。

【1】なら学研究報告1号

以下のURLよりダウンロードしてお読みください。

『なら学研究報告』1号(奈良女子大学なら学研究センター、2019.5)

【0】『なら学研究報告』を創刊しました

このたび、奈良女子大学なら学研究センターでは紀要『なら学研究報告』(Journal of NARA Studies)を創刊しました。「なら学」に関する研究論文や資料紹介、書評などを掲載していきます。

奈良女子大学には部局ごとに紀要を発行していますが、そのなかで『なら学研究報告』は以下のような特徴を持っています。

  1. 字数の上限を設定しない。
  2. 締切を設定しない。
  3. 1号1論文の不定期刊行。
  4. ウェブジャーナル形式とし、紙媒体は発行しない。

(1)は、大部の構想や大部の資料を1号のなかで掲載することを可能にするための措置です。(2)は、締切があるから論文が書けるという部分は認めつつも、(1)を納得のいくかたちで提出してほしいという思いからの措置です。(1)と(2)によって論文間のアンバランスが発生しますが、1号1論文とすることでそこをクリア。刊行時期を固定しないことで提出ごとに作業に入ることができる、フットワークの軽い媒体としました。これによって、締切や入稿直前の、編集委員会による執筆者への連絡や調整という業務負担も減りましたし、縦組・横組の指定フォーマットにのっとって執筆者にリポジトリへの入稿原稿を作成してもらうことで、外注負担もなくしました。むろん、編集委員会による校正・校閲はおこないますが。これらをふまえ、『なら学研究報告』はウェブオンリーのジャーナルとし、紙媒体を作製しないことにしたのです。

なぜ、いま、創刊したのか。

それはひとえに基礎研究や基礎データをきちんと提示・共有するためです。なんらかの発想や応用は基礎データから始まるわけですし、その後の議論の重要な土台となるものです。基礎研究なくして学知は成立しません。また、史資料の保管・提示・研究状況に地域差はありますが、県主導による『県史』が発行されていない本県にあって、基礎的な史資料の調査、翻刻、検証と、それを提示して共有できる媒体は必須です。

本誌は誌名のとおり、文理を問わず、「なら学」に関するあらゆる論考や史資料が載ることになります。リポジトリへのアップロードの際は、なら学研究センターやなら学研究会のホームページで告知していきます。

どうぞよろしくお願いいたします。

【25】中井精一:奈良県東部方言の現在

【開催文】
 【参加記】

奈良の方言学は民俗学と同様、研究蓄積が少ないといわれる。冒頭で中井氏は奈良県国語学・方言研究の歴史を整理してくださった。

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奈良県の言葉は大きくは近畿圏の方言に含まれるが、県の南部、十津川村上北山村下北山村は東京アクセントという大きな特徴をもつ。また今回とくにお話いただいた奈良県東部(山添村、都祁地域など)は、東海地方とも隣接する興味深い地域である。

中井氏は天理大学が40年前に行った東部地域の方言調査とこれまで氏が精力的に行われてきた同地域での調査結果とを対照させつつ、奈良県東部方言の現在を語ってくださった。

まず本報告で一つの流れとして確認されたのは、大阪方言の進出である。例えば、「モノモライ」を盆地部ではすでに「メバチコ」という大阪方言を用いている人々が大半である。にもかかわらず、東部地域では「メボ」「メンボ」と言う奈良方言が根強く使用されているのである。

大阪の言葉を都祁や山添などの東部地域が「くい止め」、三重県の上野方面への「東進」を防いできたこと。そこには自地域の文化や伝統を守ろうという東部地域の人々の強い自覚が存在するのではないか、と中井氏は語った。言葉・民俗・歴史などとの総合的な調査研究の重要性をあらためて意識させられた。

このように、学術的な深い問いを含みながらも、おもしろい事例をふんだんに交えてわかりやすく説明くださる中井先生の話に一同引き込まれ、あっという間に1時間半がすぎた。

今回も、本学職員(元職員さん)含め多彩な立場、分野の方が参加くださり、中井氏の話を共通項として楽しい議論の輪が広がっていった。たとえば「墓で倒れると猫になる」という言い伝えが山添村にあるが、その広がりの範囲や意味合いはという問いがある出席者から出された。さっそく民俗学を専門とする別の出席者などから様々な見解が出され議論は広がっていった。山添や都祁の方が3名もお越しくださったことでいっそう話は盛り上がり、話者の紹介、調査の提案なども参加者から行われ「地元学」という言葉の意義を実感した時間であった。

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また、今回報告者や参加者から出されたことは、たんに「奈良」という一地方の話に止まらないものが多数含まれていたことも繰り返し銘記しておきたい。たとえば近年の「自分の地域の言葉」という感覚をもたない人の増加、また情報化や流動性が高まった現代に新しい方言がいかに生まれるか、といった問いはこれから全国各地であらためて問われて良い問いではないだろうか。 

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中井研究室(富山大学)製作「奈良県方言」クリアファイル。「富山県方言」版もある。

第25回なら学研究会のご案内

奈良・大和の研究者・研究史を再評価するなら学研究会の第25回を開催します。

今回は、今年度の文学・言語と民俗・文化との関連で、少し違った角度(方言学)から、最新の奈良県内調査の報告をいただきます。

 

中井精一「奈良県東部方言の現在」
  • 【日時】2019年2月24日(日)13:00〜15:00(いつもより1時間早めの開始です)
  • 【会場】奈良女子大学文学系N棟3F、N339教室
  • 【備考】申し込み不要、参加費無料
 【要旨】

奈良県東部山間地は、北に京都府南山城地域や滋賀県甲賀地域、東に三重県伊賀地域に隣接し、北部奈良盆地とは異なる言語環境を有し、その方言は京ことばの影響を受けていると言われている。今回の報告では、2008年度より実施してきた三重県伊賀地域ならびに奈良県東部山間地における調 査をもとに、当該地位の言語特徴およびその変化について考えてみたいと思う。

【講師】

中井 精一(富山大学人文学部教授・方言学)
天理大学附属天理参考館(学芸員)を経て現職。主な著書に『都市言語の形成と地域特性』和泉書院、2012年)、『社会言語学のしくみ』(研究社、2005年)など。論文に、「民俗世界における食の地域性と方言圏—北陸地方の雑煮に注目して—」(武田佐知子編『交錯する知 衣装・信仰・女性』、思文閣出版、2014年)、「地域の和食(生き物を活かす知)がんもどき」(『BIOSTORY』21、生き物文化誌学会、2014年)など多数。

 

主催 大和・紀伊半島学研究所なら学研究船センター
共催 文学部なら学プロジェクト

問い合わせ narastudy(a)cc.nara-wu.ac.jp (左記(a)を@に変えてください)

【24】西村博美:折口信夫の大和(続)

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  • 【講師】西村博美氏(歌人
  • 【演題】折口信夫の大和(続)ー笹谷良造も含めてー
  • 【日時】2018年12月23日(日)14:00-16:30
  • 【会場】奈良女子大学 文学系N棟3階 N339教室
  • 【参加】9名
【開催文】
【参加記】

今回のなら学研究会は、前回に引き続き、西村博美先生に折口信夫と大和の関わりについて話していただいた。

折口の祖父の生地は飛鳥であった。そのことが折口の生涯のなかで一つの重要な依拠点としてあり続けた。

なつかしき故家の里の 飛鳥には、千鳥なくらむ このゆうべかも

(『海やまのあひだ』)

折口にとってそれは、研究対象としての各地とはまた異なる、いわば心の拠り所としての象徴的な地(大和)とでもいうべきものであった。西村氏は、折口の作品や弟子の回想などを織り交ぜながら、半ば現実半ば彼のなかでの構築ともいうべき飛鳥、大和像についてわかりやすく説いてくださった。


今回の研究会では、折口門下で、奈良で活躍した笹谷良造についても西村氏に講じていただいた。「言葉」(民俗語彙と言い換えてもよいのかもしれない)に鋭い意識を向けた笹谷の学問は、民俗学と文学双方の研究者にとってきわめて刺激的である。いま省みられることが少ないこうした学問を再びひもとく必要を一同痛感した。

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後半のディスカッションはいくつかのサプライズもあった。研究会の山上豊氏がご家庭のつながりで所蔵しておられた今宮中学の大正3年の卒業アルバムをご持参くださった。この年まで折口は今宮中学で教師をつとめていた。東京に発つ直前の、毅然とした表情の折口がそこにいた。

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また参加者の一人は学生時代、笹谷家に下宿していたことをお話くださった。そのころすでに笹谷氏本人は他界していたが、笹谷夫人の思い出を語ってくださった。


今回も、言語学民俗学歴史学、文学、歌人社会学など多彩な参加者があり、それぞれの分野での「折口」受容(とその困難さ)、それが後のそれぞれの学問に与えた/引き継がれなかった影響などについての話が出された。こうした文化サロンのような、本研究会の雰囲気や知的興奮をこれからも持続していきたいという思いを抱いて散会となった。

第24回なら学研究会のご案内

 奈良・大和の研究者・研究史を回顧・再評価する、第24回なら学研究会を開催します。今回も前回に引き続き西村博美先生による折口信夫(1887-1953)の続編です。

 折口は、民俗学者、国文学者、国語学者の顔をもち、釈迢空と号した歌人でもありました。そうした多面性は大和においても多くの人々に影響を与えました。

 しかしそもそも、折口にとって大和とはどういう場所だったのでしょうか。それが彼自身にどのような影響を及ぼしたのでしょうか。前回に引き続き、こうした視点から、折口という人間と大和の関係を調査研究してこられた西村博美氏(奈良民俗文化研究所研究員)に折口にとっての大和を語っていただきます。また今回は笹谷良造(1901-1969)についても触れていただきます。

  • 【テーマ】折口信夫の大和(続)ー笹谷良造も含めてー
  • 【講 師】西村博美氏(詩人、奈良民俗文化研究所研究員)。「折口信夫と水木直箭」(『奈良新聞』)ほか奈良の民俗・風物に関する著作多数。
  • 【日 時】2018年12月23日(日)14:00-16:30
  • 【場 所】N339教室(奈良女子大学文学系N棟3階)
  • 【備 考】入場無料・事前申し込み不要

お問い合わせは、なら学研究センター(naragakunarajo@gmail.com)までお願いいたします。
 主 催:奈良女子大学大和紀伊半島学研究所なら学研究センター
 共 催:奈良女子大学文学部なら学プロジェクト