なら学研究会

奈良女子大学文学部「なら学プロジェクト」のワーキンググループ「なら学研究会」の活動報告。奈良の研究史・研究者の回顧・再評価をおこなっています。

【26】田原でなら学——田原青年層の地域活動と昭和期青年団資料——

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講師の西久保繁己氏
  • 講師:西久保繁己氏(元奈良市図書館長・田原公民館主任)
  • 日時:2019年6月16日(日)14時〜16時
  • 会場:奈良市田原公民館講座室
  • 参加:5名
開催文
 参加記

かつて「優良村」として知られていた奈良市田原地区の特徴を、福西信幸「田原を訪ねて」はこう指摘している。

二宮金次郎で有名な報徳会の機関誌『斯民』は優良村田原について次のように記しています。「歴代の村長は何れも熱心で、その期間敢えて長期に渉った人はいないけれども、要するに誰でなくては治まらぬと云うこともなく又他を排して任に就こうとする野心家もない。推されて任に就くや精勤事に当たり……事なるや他に譲りて交代任に当たるの習慣がある。この点他の優良村と著しく趣を異にしている」と。このように、他の模範村が概して特定の「名村長」の個人的力量によって組織・維持されていたのに対して、田原では村内に設けられていた種々の経済団体、地域団体、社会教育団体などが大きな役割を果たしていたのであり、これらの諸団体の自律的で活発な活動と相互協力が原動力であり、優良村としての田原の歩みはそれらに何らかの形で参加していた愛郷心に富み、理想の村建設の意欲に満ちた村民のたゆまぬ営為によって、内部から深く支えられていたのでありました。*1

今回は、田原を支えていた「たゆまぬ営為」の一つとしての青年団に注目し、その歴史と意義を西久保氏にお話いただいた。西久保氏ご自身も地域公民館活動の一端として『田原のくらし』を編み、各種イベントをとおして青年団と関わってきた経験をお持ちだが、お話から見えてきたのは、青年団の、各人の自発性で支えられた組織力と行動力であった。今回、機関誌『月刊田原』を初めて見ることができたが、村政、修養、文芸といった内容に加えて編集や印刷、配布といった側面と、それが長きにわたっておこなわれてきたことを思うにつけ、村内の青年たちに受けつがれてきたであろう「精神」なるもの——上記の福西氏はそれを「愛郷心」と「意欲」と見、西久保氏もおなじことを仰っていたが——があったのだろうかと思う。その涵養と継承とにこの機関誌は大きく与っていただろうし、それがまた「精神」を培っていくというサイクルを思うのである。

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『月刊田原』をはじめ、『東和新報』『神野百姓』など珍しい新聞も。

 『月刊田原』は青年団『団報』や村農会『会報』、処女会会報などが統合されたものであるが、そうした成立前史に位置づけられる各誌、および『月刊田原』と同時並行で流通していた各紙誌が残っていた。また、奈良市内での印刷や広告から外部とのつながりも見えて来、田原という地区を内外から多角的に検証しうる格好の資料群であった。

*1:福西信幸「田原を訪ねて」、『田原のくらし—語りつごう私たちの文化—』第2集、奈良市立田原公民館、1988年3月、p.73。