なら学研究会

奈良女子大学なら学研究センターのワーキンググループ「なら学研究会」の活動報告。奈良の研究史・研究者の回顧・再評価をおこなっています。

【29】春日神鹿保護会の記録・組織・活動-鹿の保護活動とその当事者たちの分析-

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報告資料タイトルスライド
  • 日 時 2020年8月23日(日)14:00〜16:30
  • 方 法 zoom によるオンライン開催
  • 参加者 9名

講師紹介

東城義則氏(立命館大学客員研究員・民俗学

現在、立命館大学客員研究員、京都外国語大学非常勤講師など。産学連携や地域連携、文化財調査等の事業に従事しつつ、狩猟や畜産、動物保護活動など、主に動物に関わる生業・職業・産業の当事者たちの活動実践や思想の研究をテーマとする。

開催要旨

明治期以降の奈良における鹿の保護活動や保護管理については、研究者や知識人、行政職員、神職等による地域史研究や『奈良公園史』『奈良市史』に代表される行政機関による調査研究、生息地管理や保護管理方法の考案を視野に行われてきた文理横断型の調査研究により、これまで多くの事象や出来事が明らかにされ、現在も各テーマに沿った研究が進められている。このような脈絡により貴重な研究成果が多数蓄積されてきた一方で、用いられてきた資料の制約や顕在化した出来事への着眼により、鹿の保護団体や鹿の保護に携わった人びと、総じて日々の鹿の保護活動に従事してきた当事者たちの取り組みについては十分な把握が行われてこなかった。そこで今回の報告では、近年の資料調査や実地踏査の成果をふまえ、主に明治期から昭和初期にかけて鹿の保護に取り組んできた春日神鹿保護会の組織と活動を紹介する。そのうえで、当時から現在へと通じる鹿の保護活動の論理について簡単な整理と考察を行う。

講義内容

  • 奈良の鹿をめぐっては、人文科学(歴史学、地理学、民俗学など)、社会科学(法学、社会学など)、自然科学(動物学など)など多方面から研究がなされている。
  • これらの重なりあった中心にあるのが行政・保護団体・神社であり、そことの情報交換をとおして、奈良における人と鹿とについての諸研究は進められている。
  • 有形の研究資料としては、個人や諸機関が所蔵する「土産品資料」「写真資料」「諸記資料」が伝わっている。
  • この報告では、奈良の鹿愛護会が所蔵する「記録資料」をとおして見えてくる、同会の前身である春日神鹿保護会の組織と活動についての紹介する。

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報告資料より、「現状の把握」
  • 鹿の死亡原因の調査、施設に収容した鹿のための飼料収集、鹿害(獣害)の協議と対策なども往時からおこなわれていた。
  • 組織としては役員に神職や公吏、農会などの利害関係者が担うとともに、会員は各町総代らの加入を前提としていた。
  • のちに保護と対策を料理するため組織の拡大をしていくが、これは組織財政の安定化をも図っておこなわれた。

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質疑応答でも話題となった鹿の角きりに関わる絵葉書や出版物