なら学研究会

奈良女子大学なら学研究センターのワーキンググループ「なら学研究会」の活動報告。奈良の研究史・研究者の回顧・再評価をおこなっています。

なら学勉強会

  • 【講師】鈴木元子(編集者)
  • 【演題】『ならら』編集の日々を振り返って

 

  • 【日時】2020年9月20日(日)14時〜
  • 【形態】オンライン(zoom)
  • 【参加】5名

『月刊大和路ならら』の元編集長である鈴木元子氏をお招きして、内々の勉強会を開催しました。同誌には奈良女子大学なら学研究センターの「続・続・大学的ならガイド」を連載しており、本学教員は鈴木さん——と「さん」付けで呼ばせてもらいます——に少なからずお世話になっています。

2005年12月に奈良に来て約14年にわたって同誌の編集長をつとめてきた鈴木さん(来寧以前は、なんと、エジプト学で有名なW大学のY教授の秘書をされていたそうです)。ご出身が静岡県ということで奈良に地縁はなく、修二会が大好き!というブレない柱を軸に編集されてきたそうです。

当初はなかなか質問にも答えてもらえず、いわば「値踏み」されていたわけですが、地道な下調べとユニークな発想とで次第に応答も活発になってきたそうです。

同誌は奈良県観光連盟による「第一回奈良県観光PR大賞」(2000年)最優秀賞を受賞しており、すでに地域で認められた媒体でしたが、その後、日本フリーペーパー大賞2013の観光誘致部門で最優秀賞を、日本タウン誌・フリーペーパー大賞2014の有料誌部門で優秀賞を、同2015で観光庁長官賞優秀賞をそれぞれ受賞するにいたりますが、「奈良発信の全国誌」たるべく編集体制や雑誌デザインを少しずつ変えていった鈴木さんらスタッフの尽力が背後にあったわけです。

毎号の特集も趣向を凝らし、お水取りや御祭などの年中行事はどうしても定型的になってしまうところを毎号ユニークな角度からアプローチし(大和士や御仮殿など)、常に読者の「奈良を知りたい」欲求を満たしてくれてましたが、東京では毎号平均して売れるのに対し、関西では特集によってばらつきがあったそうです。鈴木さんは「奈良に対するロマン的あこがれもあって、知識に対するどん欲さがあったのではないか」と仰っていましたが、近代「奈良」表象を考えるうえでも、そしてそれが現在まで地続きであるという点においても、現場の体験をふまえた説得力のある重要な指摘でしょう。ちなみに、そんな東京も含めて全国的に反応が悪かったのが、2012年7月号、九十九黄人(豊勝)に焦点をあてた「愛すべきエロじじい」特集だったそうで。。。性風俗史やそれにまつわる民具類などは、いわゆる「奈良」イメージにはなかったものかもしれませんが、実は九十九(つくも)、近代奈良県、ひいては関西圏の「郷土史研究」には欠かせない重要人物。なら学研究会が研究テーマのひとつとしている澤田四郎作とも親交がありました。

講義の終わりに、鈴木さんはご自身の編集態度を総括して、「常にストレンジャーでありたい」と仰いました。鈴木さんご自身が出自的に「ストレンジャー」でもあるわけですが、加えて、常に意識して外からの目を持っていたいということでしょう。かくいう私(磯部)も新潟に生まれ、いま奈良にいるわけですが、近代奈良県を研究するにあたってもっとも意識しているのが、この「外からの目」だったりします。この指摘はとても共感できるもので、何度も何度もうなずいた次第。

と、書けるのはここまで。本講義では、取材過程で出会った方々のあれやこれや、あんな場所のこんなところ、などなど、なかなか公開しづらいことなどもお話いただきました(これを読んでいただいた方、すみません!)。内々の勉強会した所以でございます。。。