なら学研究会

奈良女子大学なら学研究センターのワーキンググループ「なら学研究会」の活動報告。奈良の研究史・研究者の回顧・再評価をおこなっています。

花岡大学旧蔵史料調査(続)

9月9日(金)、大淀町佐名伝所在の浄迎寺を訪問し、拝借資料の返却と、新たな調査史料をお借りしてきた。

浄迎寺門前

拝借資料(1)

拝借資料(2)

前回にひきつづき、今回も方々からの雑誌と書簡。雑誌は、京都、大阪をはじめ、各地で発行された児童文学系の雑誌が多いが、花岡の活動に鑑みると、京都発行の雑誌はきわめて興味深い。

書簡も、自身で雑誌を運営している方々からのものも多くあり、豊穣な文化の根底にある「日常の風景」を垣間見ることのできる貴重な史料である。

まとまったところで、『なら学研究報告』誌上で報告したい。

雑誌や書簡は中性紙封筒に入れて番号を振り、エクセルデータと照合できるようにしている。

借用書執筆中の磯部。雨上がり後の湿気で眼鏡もずり落ちる。

 

畝傍高校所蔵史料閲覧訪問

畝傍高校ご所蔵の史料閲覧のため、訪問してきました。

畝傍高等学校正門

畝傍高校は、明治29年(1896)設置の奈良県尋常中学校畝傍分校に始まる長い歴史を持っています。

史料館保管の学校文書、図書室配置の書籍、部室排架の文芸誌類。旧制中学以来の歴史を持つ同校だけに、奈良県との往復文書、分校時代購入の書籍など、貴重な史料が多々ありました。これらは学校の歴史のみならず、当該地域や県の歴史を考えるうえでも貴重な史料になるものです。

 

学校文書は年度ごとに綴じられていて、非常に分厚い簿冊です。どのように撮影するのが良いでしょうか。また、未来に向けてどのように保存していくのが良いでしょうか。学校文書の利活用と保存について、継続的に考えていきたいと思います。

花岡大学旧蔵史料調査

一ヵ月前に以下の記事を投稿しましたが、今回、あらためて浄迎寺を訪問し、旧蔵史料の確認をしたのちに調査史料をお借りしてきました。

今回拝見したのは、花岡大学旧蔵雑誌。大学が執筆した雑誌のほか、大学宛寄贈雑誌も多々ありました。北は北海道、南は鹿児島で出版された雑誌があり、こうした児童文学同人誌交流の結節点にいたことがよく分かります。

今回は奈良で出版された雑誌をお借りしましたが、はじめて見る雑誌も多く、撮影とデータ入力が楽しみです。

 

上記のほか、花岡大学宛の前登志夫司馬遼太郎住井すゑらの書簡もお借りしました。こちらも撮影、データ入力、読解が楽しみ。どんなことが書いてあるんでしょう? 雑誌とともに、『なら学研究報告』誌上で報告したいと思います。

第34回なら学研究会のご案内

【テーマ】吉野の山村と私の研究——十津川村を中心に

【講 師】岡橋秀典氏(奈良大学教授、人文地理学)

  • ご業績
    • 『現代農村の地理学』(単著、古今書院、2020年)
    • 『現代インドにおける地方の発展-ウッタラーカンド州の挑戦』(共著、海青社、2014年)
    • 『山村政策の展開と山村の変容』(共著、原書房、2011年)他多数

2011年9月の紀伊半島大水害からはや11年目の9月が訪れます。

今回は、十津川村を含め日本・世界の農山村を調査してこられた地理学者の岡橋先生に、十津川村と中心として氏の山村研究を振り返っていただきます。

【日時】2022年9月11日(日)13:00-15:00

  • 参加費:無料
  • 開催:Zoomによるオンライン(以下で事前登録してください)。
  • このミーティングに事前登録する:

https://us06web.zoom.us/meeting/register/tZ0ufuuprD4oEtIeOrBIFrG3949pAHggehTN

登録後、ミーティング参加に関する情報の確認メールが届きます。インターネット環境などの不調等は対応できませんので、ご了承の上お申し込みください。

 

■主催 大和・紀伊半島学研究所なら学研究センター

■共催 文学部なら学プロジェクト

■問い合わせ なら学研究センター(narastudy@cc.nara-wu.ac.jp

 

花岡大学旧蔵史料調査に向けて

奈良県は吉野郡大淀町佐名伝に所在する浄迎寺に寺岡(奈良女子大学)と磯部(奈良女子大学)、松田度氏(大淀町教育委員会)の3人でお邪魔し、花岡大学旧蔵史料を見せていただきました。

浄迎寺

花岡大学は、この浄迎寺の花岡大雄の次男として生まれました。大学の旧蔵書類は龍谷大学の花岡文庫に収められていますが、浄迎寺には大学宛の書簡や寄贈書籍、大雄宛の書簡類が遺されており、本日はそれらを拝見しました。

調査前なので詳細はまだ書けませんが、前登志夫からの書簡がごっそりとあり、磯部の大学院演習でおこなっている横田俊一宛前登志夫書簡とあわせて読むことで、前や大学の創作営為のみならず、戦後奈良の文芸交流、ひいては県外との諸交流も含めて明らかになるのではないかと期待させるものでした。

フィルム類。「清願寺のことも」「かたすみの満月」など。どんな内容なのでしょうか。

このほか、あの作家やこの作家など著名人からの書簡や寄贈署名本、出版元とのやりとり書簡、ファンレターなどが多々ありました。きちんと整理したうえで、なんらかのかたちで報告したいと思います。

貴重な史料をお見せくださり、また研究調査をご快諾いただいた花岡家のみなさまに感謝申しあげます。

浄迎寺の松。司馬遼太郎が大学を訪ねてきたとき、この松をスケッチしたのだとか。

【33】下北山村を知る

第33回なら学研究会を開催した。

  • テーマ:下北山村を知る
  • 講 師:巽正文氏(元・下北山村歴史民俗資料館長)
  • 日 時:2022年3月14日(月)午後2時~4時
  • 開催:zoomによるオンライン開催
  • 参加:27名

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巽正文氏

下北山村がどのあたりにあるかご存じだろうか。

奈良県の南端に位置し、同村の南は三重県和歌山県と接している。西辺は熊野へと至る大峯奥駈道と接しており、ゆえに修験道と関わりの深い地でもある。奥深い山間の地であるが、北山川は南下して熊野川と接続して海へとつながる水運の地でもあった。

 

この研究会では、まずこうした地理的な説明から始まり、その後に各集落の特徴が説明されていった。

下北山村林業においては、川沿いの池原・桑原の筏師たちが他集落の切り出した木々を運んでいったのだが、発電所の建設による水流の変化等が起こったという。そこで、発電用水路を利用した筏流しが始まり、「落筏路」(らくばつろ)が作られたのだという。

奈良県立図書情報館ITサポーターズによる「奈良の今昔写真WEB」では、「吉野町・神宮・吉野川」項において楢井発電所における落筏路の写真が掲載されている。以下のURLよりページ上方にある「落筏路(流筏路)」の項をご覧いただきたいが、「落筏路・吉野発電所第二水路」などはなかなか勢いのあるようすが撮影されていて、水路の長さも知りうる興味深い写真である。

下北山村とは別地域ではあるが、参考までに掲げておく。

後半は、巽氏ご持参の『禅宗門御改寺請并家数人別員数帳』を読み解きながら、下北山村の歴史を紐解いていった。他地域からの移動による家の増加と耕地の分割。それゆえの山の切り出しと林業の発達。史料の記述から歴史が浮かびあがってきてきわめてスリリングであったが、過去のこととしてとどまるものではなく、万博による人の流出と林業の機械化などにもつながっていく現在進行形のお話であった。

下北山林業は村内で完結するものではなく、たとえば下市を通じて新宮と繋がっていたりもしており、下北山村をとおして「奈良」のネットワークを知る機会ともなった研究会であった。下市町にある奈良女子大学下市アクティビティセンターで視聴してくださった地元の方々も興味を持って聞いてくださったようだ。これからはこうした機会をとおして、下市の方と下北山の方など、地域間のディスカッションが花開いていくこともなら学研究センターは願っており、そうした機会をどんどん設定していく予定である。

以下、当日のようす。

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樽井由紀『奈良盆地におけるノガミ行事に関する研究 その1』の公開

樽井由紀氏(奈良女子大学非常勤講師、大和・紀伊半島学研究所なら学研究センター協力研究員)による『奈良盆地におけるノガミ行事に関する研究 その1』(令和2年度奈良女子大学大和・紀伊半島学研究所一般共同研究助成金報告書、2021年3月)が公開されました。

 

 

ノガミ(野神)行事とは、報告書によれば、

奈良盆地では、水田の端に在る森や大木を農耕の守り神を、ノガミとして祀る。このノガミの木の下に祠や塚があることもある。ノガミの木や塚は村堺に位置することが多く、神聖な場所と見なされ、祟りを恐れて、近づくことはないが、一年に一度、田植え前にその場所に集まり、子孫繁栄、五穀豊穣を願う行事が執り行われる。(p.1)

ことをいいますが、樽井氏のこの報告では、農業の衰退と民俗行事の変化をふまえた現在進行形かつ未来への継承という問題意識で聞き取り調査等をおこなっています。その意味でこれは、行事のみならず調査研究の方法そのものが論点にもなっている報告書ともいえましょう。

ぜひぜひご一読くださいませ。