なら学研究会

奈良女子大学なら学研究センターのワーキンググループ「なら学研究会」の活動報告。奈良の研究史・研究者の回顧・再評価をおこなっています。

なら学研究センター「要覧」(2022年度版)

奈良女子大学大和・紀伊半島学研究所なら学研究センターの2022年度版『要覧』が公開されました。

http://www.nara-wu.ac.jp/naragaku/report/2022catalogue.pdf

上記はなら学研究センターのホームページにアップされているものです。

なら学研究会は、「奈良・大和の知のネットワークを探り、奈良の文化を支えてきた文化メディエーターに光を当てる」「奈良の郷土知ネットワークの再評価事業」の中核をなす活動で、自らもまたそうした役割を担うべく活動をしています。過去の研究会については、「【活動】研究会」カテゴリーで紹介しています。ご興味の向きは、ご覧ください。

引き続き、よろしくお願いいたします。

 

『なら学研究報告』1〜10号紹介

なら学研究センター(奈良女子大学大和・紀伊半島学研究所)の紀要『なら学研究報告』が10号を迎えました。

1号1報告のウェブジャーナルとして2019年5月に創刊しましたが、そこから3年半、2022年11月に10号を刊行することができました。「基礎研究や基礎データをきちんと提示・共有するため」に立ち上げた媒体ですが、第9号「【資料紹介】『前登志夫著作略年譜』(前登志夫自筆書き入れ)」のように、今後は撮影資料のPDF公開もおこなっていきたいと考えています(画像資料の使用要領については検討中)。

1〜10号掲載の論考等は、下記URL(奈良女子大学学術情報センターリポジトリ)よりダウンロードできます。ご興味の向きは、ご覧ください。

引き続き、よろしくお願いいたします。

 

創刊のことば

 

第1号(2019.5)

 

第2号(2020.3)

 

第3号(2020.8)

 

第4号(2020.9)

 

第5号(2020.12)

 

第6号(2021.6)

 

第7号(2021.9)
  • 執筆者:磯部敦・加治屋初弥・佐藤さくら・中村栄理子・三浦実加
  • タイトル:【資料紹介】戦後奈良の文芸同人雑誌『望郷』『詩豹』 附 旧蔵者横田俊一の略歴と執筆文献一覧
  • http://hdl.handle.net/10935/5640

 

第8号(2021.9)

 

第9号(2022.11)

 

第10号(2022.11)

 

第36回なら学研究会のご案内

近年、歴史学上のテーマにIT技術を積極的に応用する研究が行なわれています。

そうした研究を牽引してこられた大塚恒平氏に、かつて住んでおられた奈良を対象にした研究成果をご紹介いただきます。

【テーマ】「奈良の地誌研究における、最新の判明事項と研究の諸問題」

【講師】大塚恒平氏(Code for History 代表)

  • Researchmap 
  • 専門 情報学, 地理学, 郷土史
  • プロフィール 地図技術者20年の経験から、古地図アプリMaplatを完成させる。Maplatの活用事例検討のために郷土史に取り組み始め、歴史学の諸問題をITの力も用いて解決する活動 Code for History を提唱。
  • 論文 「絵図・地誌から解き明かす重要文化財の来歴——奈良・称名寺薬師如来立像の来歴と高畑鬼界ヶ島に関する調査」(『地理交流広場』第5号、2022.11)ほか
  • 参考 石造文化財アイコン 長慶(Chokei)
    https://github.com/code4history/Chokei

【司会・聞き手】西村雄一郎(奈良女子大学文学部・地理学)

【日時】2023年2月5日(日)14:00~16:00(終了予定)

【実施方法】zoomによるオンライン。要事前申し込み。

  • 参加ご希望の方は、以下から事前登録し、zoomのURLを取得してください。登録後、ミーティング参加に関する情報の確認メールが届きます。

【備考】参加費無料。通信状況の不具合などへの対応は致しかねますのでご了承のうえ、お申し込みください。

 

■ 主催 奈良女子大学大和・紀伊半島学研究所なら学研究センター

■ 共催 文学部なら学プロジェクト

■ 問い合わせ先 narastudy*cc.nara-wu.ac.jp( * を @ に変換してください)

【35】幕末の奈良まちに生まれた奇豪:宇宙庵 吉村長慶

【テーマ】幕末の奈良まちに生まれた奇豪:宇宙庵 吉村長慶

【話 者】安達正興氏

【聞き手】寺岡伸悟(奈良女子大学なら学研究センター長)

奈良の近代史において「語られざる存在」であった「長慶さん」に光をあて、同タイトルの労作を2011年に出版された安達正興氏をお招きし、本書出版に至る経緯、安達氏からみた長慶像などを対話形式で語っていただきます。

【話者紹介】1941年奈良市生まれ。大阪美術学校卒業。72年よりノルウェー・ベルゲン大学地球科学研究所、同日本語学科兼任講師を経て、資源地図製作社3DD設立し海底地質構造図の制作、北欧各地の自治体鳥瞰図、オスロ、ベルゲン市発行の観光公式マップ制作。ベルゲン在住。前記の本の他に、『奈良まち奇豪列伝』『奈良きたまち異才たちの肖像』(奈良新聞社)など。

■ 開催日時 2022年11月13日(日)14時から16時(終了予定)

■ 開催方法 zoomによるオンライン

【左】寺岡伸悟(なら学研究センター長)、【右】安達正興氏

□ 参加記録

近代の奈良で活躍した人物に再びの光を当て、彼らの知のネットワークを探ることは、なら学研究会の中心テーマとなってきた。そうした際、これまでに出版された近代奈良の人物紹介やその考察書などがその出発点となる。しかしそうしたなかに、なかなか記されることのない人物が、吉村長慶である。

現在奈良町周辺を中心に、県内、さらに近畿などに、彼の寄進した石造物が多数遺されている。その特異な意匠や、宇宙教とでもいうべき教義を唱えたことなどから、彼の名には「奇人」というイメージがつきまとうようだ。

しかし、「三尺将軍、長慶さん」として親しまれ、議員まで勤めたことからも奈良の人たちからの人望もあつかったこと、実業家としても大きな成功をおさめたこと、さらに徹底した反戦・平和主義、交易による国際交流を唱えた意見書や隣国の事情分析などには極めて論理的・理知的な側面があらわれている。本当に「正体のつかめない、解釈・評価の難しい人物」であることは間違いがない。

こうした「難問」に果敢に挑み、現地調査や関係者への執念ともいえる聞き取りによって「長慶さん」の全体像を一書にまとめたのが、今回の講師の安達正興氏である。

安達氏は奈良市生まれであるが若くしてノルウェーに渡り、現在もノルウェー在住ながら、たびたび帰郷してこの一書をものされた。今回の研究会では、安達氏と吉村家のご縁、さらに調査の過程での経験などを詳しく語っていただいた。

1時間半を超える長慶さんをめぐる講演と参加者によるディスカッションが行われた。しかし、「長慶さんとは何者か」、という単一の答えは誰も導き出せそうになかった。

参加者の一人が研究会終了後、以下のような発言を述べられた。正確な記録ではないが、印象的な発言であり、またここに吉村長慶という存在を解く鍵があるような気がする。引用して今回の研究会報告の締めの言葉としたい。

「長慶さんという人は、幕末に生まれ、近代社会の胎動、そして日本が国際社会に参入する様にまさに直面した個人である。経済、宗教、国際政治の激動という社会変動が生み出した人そのものなのではないだろうか」。

前登志夫旧蔵資料調査の開始

10月15日(土)、「峠のまなび舎」の拠点である旧広橋小学校(1999年閉校)と、その広橋地区で生まれた歌人前登志夫(1926−2008)宅を訪問しました。

 

峠のまなび舎

「峠のまなび舎」は広橋地区の地域活性プロジェクトで、広橋小学校の旧校舎を用いて地域交流の場として活用しています。

旧広橋小学校

うかがった当日は、上北山村出身の落語家笑福亭竹林さんを招いての「親子で落語を楽しもう会」が開催されていました。校舎脇の旧教員住宅をリノベーションしてゲストハウスにするなど、活発な活動をされています。

その校舎の一室に、前登志夫の著作を配架した「前登志夫研究室」が設置されています。「峠のまなび舎」代表理事の高野加織さんのお話によりますと、地域の人たち、泊まりにきた人たちに広く開放するとともに、前登志夫や前の短歌を通して子供たちが歌と接するような場にしたいとのこと。

研究室には、前の短歌を写した子供の色紙が飾られていました。ちなみに、前登志夫の著作は、前登志夫ご子息のご寄贈によるものだそうです。

前登志夫研究室

前登志夫文庫棚

前登志夫著作(部分)

当日は前登志夫が立ち上げた短歌同人誌『ヤママユ』の編集長にも同道いただきましたが、編集長は、前の貴重な詩集『宇宙駅』を持参、寄贈されてました。地区内外の人びとたちの交流や支援のありようが見てとれる一瞬でした。

『宇宙駅』排架の瞬間

 

前登志夫

前家門前、塀沿いの一本道

その後、編集長の案内で前登志夫宅を訪問することができました。前登志夫の書斎は、当時のまま残っていました(撮影と公開の許可をいただいてます)。

前登志夫の書斎

この反対側は庭に面しており、庭のようすのうつろいを見ながら、夜な夜な歌作に耽っていたのでしょうか。自身の周りに本をどんどん重ねていったようすは、かつて研究会で歌人の喜夛隆子氏が仰った、「前は、本の砦の歌の鬼」という評語を思い出します。

今回、ご子息、『ヤママユ』編集長とともに前登志夫旧蔵書籍や資料の現状と今後について話しあい、撮影と公開を目標に創作ノート50点ほどをお借りすることができました。

前登志夫自身による発想メモ、推敲など歌の生成過程を如実に知ることができる貴重な資料です。これらは撮影後、『なら学研究報告』誌上での公開を目指していきます。

発想や創作のノート



【34】吉野の山村と私の研究——十津川村を中心に

2022年9月11日(日)、岡橋秀典氏(奈良大学教授、人文地理学)を講師にお招きして、「吉野の山村と私の研究——十津川村を中心に」と題した研究会(第34回研究会)を開催した。

講師の岡橋氏は農村地理学がご専門。日本の農山村とインド地域研究を行ってきたのち、近年は日本の農山村、とくに奈良県の山村研究に力を入れておられる。

日本は山地が60%以上を占める。しかも、多くの人々が古くから山に居住し、固有の社会・文化を形成してきた。しかし戦後極めて大きな変化、そして厳しい過疎化にさらされ、日本の山村は存亡の危機にある。

岡橋氏は、いまあえて日本の山村の多様性とその豊かさに目を向け、それらの持続可能性について考えてみたい、と述べられた。近視眼的な「今ここ」ではなく、より長期にわたり、かつ俯瞰的な視野に立って展望することが、山村の未来を考える際に必要だ、という主張が、岡橋山村地理学のコアにある、と感じられる。

奈良県斑鳩町生まれの岡橋氏は、1970年代、自身の卒業研究のフィールドとして吉野郡十津川村上湯川地区を取り上げられた。そして昨年、「奥吉野山村・奈良県十津川村における1集落の変貌ー上湯川集落の200ー」(奈良大地理27号、2021年)と題する論文で、改めて上湯川に焦点をあて、その変容から山村を読み解く作業を行なった。上湯川の変貌を数期に分けて上記の視野から語るなかで、上湯川という山村が動的に蘇るような高揚感を抱いた参加者も少なくないのではないだろうか。「私の研究は、吉野に始まり、吉野に終わる?」と自ら語られる岡橋氏の山村研究の核心を十津川に伺い知ることのできる報告であった。

最後のまとめとして、氏は、上湯川でも十津川村においても、そこには地域固有のレジリエンスが作用してきたと述べる。マクロな激動のなかで、山村は精一杯、かつ柔軟な対応を見せてきた、それがレジリエンスだ。とくに上湯川では、椎茸生産に始まる長期にわたるキノコ生産の伝統と、開放的でフラットな地域社会が作用しているようだ、氏は総括された。

上湯川を含めた十津川村は、例えばダム開発の遺産(貯木場等維持管理事業基金の活用による林業の6次産業化事業、さらに「日本一広い村」としての十津川ブランド構築など、次々と戦略を繰り出し、その歴史を未来につなごうとしているのである。

十津川村、9月」といえば、2011年の紀伊半島大水害が想起される。質疑応答の時間の冒頭、永井書林、松山京氏による『現代語訳 吉野郡水災誌十津川編』(永井書林、2020.9)の紹介が行われた。

水害時、十津川村永井地区におられた松山氏が『水災誌』と出会い、その十津川部分を現代語訳して村の方たちに届けるため出版社まで立ち上げられた思いの一端をお話いただくことができた。奈良・大和の歴史や文化は、まさにそこに居る人々によって経験され、紡がれていく。そのことをあらためて感じた今回の研究会であった。

第35回なら学研究会のご案内

【テーマ】幕末の奈良まちに生まれた奇豪:宇宙庵 吉村長慶

【話 者】安達正興氏

【聞き手】寺岡伸悟(奈良女子大学なら学研究センター長)

奈良の近代史において「語られざる存在」であった「長慶さん」に光をあて、同タイトルの労作を2011年に出版された安達正興氏をお招きし、本書出版に至る経緯、安達氏からみた長慶像などを対話形式で語っていただきます。

【話者紹介】1941年奈良市生まれ。大阪美術学校卒業。72年よりノルウェー・ベルゲン大学地球科学研究所、同日本語学科兼任講師を経て、資源地図製作社3DD設立し海底地質構造図の制作、北欧各地の自治体鳥瞰図、オスロ、ベルゲン市発行の観光公式マップ制作。ベルゲン在住。前記の本の他に、『奈良まち奇豪列伝』『奈良きたまち異才たちの肖像』(奈良新聞社)など。

【参考】奈良新聞』2011.6.25

 

■ 開催日時 2022年11月13日(日)14時から16時(終了予定)

■ 開催方法 zoomによるオンライン

■ 申込方法 参加ご希望の方は、以下から事前登録し、zoomのURLを取得してください。

https://us06web.zoom.us/meeting/register/tZIqcOurqzItG9bkNExBzQnhuKsa1-fEGouZ

登録後、ミーティング参加に関する情報の確認メールが届きます。

参加費無料です。

通信状況の不具合などへの対応は致しかねますのでご了承のうえ、お申し込みください。

 

□ 主催:奈良女子大学大和・紀伊半島学研究所なら学研究センター、

□ 共催:文学部なら学プロジェクト

□ 問い合わせ先:narastudy★cc.nara-wu.ac.jp(★を@に変換してください。)