なら学研究会

奈良女子大学なら学研究センターのワーキンググループ「なら学研究会」の活動報告。奈良の研究史・研究者の回顧・再評価をおこなっています。

前登志夫旧蔵資料調査の開始

10月15日(土)、「峠のまなび舎」の拠点である旧広橋小学校(1999年閉校)と、その広橋地区で生まれた歌人前登志夫(1926−2008)宅を訪問しました。

 

峠のまなび舎

「峠のまなび舎」は広橋地区の地域活性プロジェクトで、広橋小学校の旧校舎を用いて地域交流の場として活用しています。

旧広橋小学校

うかがった当日は、上北山村出身の落語家笑福亭竹林さんを招いての「親子で落語を楽しもう会」が開催されていました。校舎脇の旧教員住宅をリノベーションしてゲストハウスにするなど、活発な活動をされています。

その校舎の一室に、前登志夫の著作を配架した「前登志夫研究室」が設置されています。「峠のまなび舎」代表理事の高野加織さんのお話によりますと、地域の人たち、泊まりにきた人たちに広く開放するとともに、前登志夫や前の短歌を通して子供たちが歌と接するような場にしたいとのこと。

研究室には、前の短歌を写した子供の色紙が飾られていました。ちなみに、前登志夫の著作は、前登志夫ご子息のご寄贈によるものだそうです。

前登志夫研究室

前登志夫文庫棚

前登志夫著作(部分)

当日は前登志夫が立ち上げた短歌同人誌『ヤママユ』の編集長にも同道いただきましたが、編集長は、前の貴重な詩集『宇宙駅』を持参、寄贈されてました。地区内外の人びとたちの交流や支援のありようが見てとれる一瞬でした。

『宇宙駅』排架の瞬間

 

前登志夫

前家門前、塀沿いの一本道

その後、編集長の案内で前登志夫宅を訪問することができました。前登志夫の書斎は、当時のまま残っていました(撮影と公開の許可をいただいてます)。

前登志夫の書斎

この反対側は庭に面しており、庭のようすのうつろいを見ながら、夜な夜な歌作に耽っていたのでしょうか。自身の周りに本をどんどん重ねていったようすは、かつて研究会で歌人の喜夛隆子氏が仰った、「前は、本の砦の歌の鬼」という評語を思い出します。

今回、ご子息、『ヤママユ』編集長とともに前登志夫旧蔵書籍や資料の現状と今後について話しあい、撮影と公開を目標に創作ノート50点ほどをお借りすることができました。

前登志夫自身による発想メモ、推敲など歌の生成過程を如実に知ることができる貴重な資料です。これらは撮影後、『なら学研究報告』誌上での公開を目指していきます。

発想や創作のノート